ある小話

8:29 映像

2012


2つの映像が交互に流れる。片方は子どもがスピーチしている映像。それが終わると、もう片方でおじいさんがスピーチを始める映像に切り替る。字幕の文言はどちらもまったく同じ。


この前公園の掃除をしようと

池の落ち葉すくいをしていたら

どこからか小さな女の子がやって来ました

池のコイにどんぐりをあげに来たんです

どんぐりのごはんどうぞー!

と繰り返し言っては

どんぐりをまき始めました

どんぐりなんて食べないのにね

でもなんだか私は嬉しくなって

思わず女の子に話しかけました

どんぐりは大きくて食べられないみたいだなあ

おじさんがコイのごはん持って来てやろうかあ

と話したのです

そういえばうちの孫にもこんな時期がありました

今年から高校生にあがります

今は親の言う事さえ全然聞かなくなったけど

こんなかわいい時期もあったなあ

なんて懐かしく思っていた矢先です

おじさんがこっちを見たのです!

私と視線が合ったのです!!

どうやら私は

あのおじさんではなかったのです

私は遠く池の反対側から

ぼーっと見ていただけだったんです

さっきまで向こう側にいた意識は

思い出したように自分の体の中に縮こまりました

おじさんが思った事は全部

私が勝手に想像したことでしかなかったんです

私は遠くから見てただけだったんです

この前そんな事があったんです

今は私がしゃべっているここが中心です

しかしそんな私も

この声とこの容姿に頼っているだけかもしれません

今や私はただの字幕でしょうか

ならば私はこの幕と共に私は消えるでしょうか

いいえ大丈夫

字幕は読まれる事で存在します

今頭の中で読んでいるでしょう

かき鳴らしているのはその私です

だから幕がおりても残ります

私は消える事がありません

気付けばいつでも外側にあるんですから

しかしそろそろあなたも

こっちの私を必要としなくなるでしょう

まあその時はまた他の誰かを見つけているのかも…

…イングィヒメンギィヒメン

チュラシアス

グラセアス